在宅介護は、愛する家族のために尽くす、尊い時間。そう思って始めたはずなのに、いつしか「もうやめて…」と心の中で叫んでいる自分がいる。それは、あなたの心が弱いからではありません。誰も教えてくれない予期せぬトラブルや、専門知識の不足が原因で、追い詰められてしまうからなんです。
この記事では、元々80kgを超える体格の良い父が寝たきりになり、認知症が進行したことで直面した壮絶な経験から、私が「もっと早く知っておけばよかった」と心から後悔した3つの対策を、具体的な事例と共にお伝えします。
今、在宅介護で便の問題や認知症の行動に悩んでいる方、これから介護を始める方にとって、きっと「知らなかった！」という気づきと、明日から使える実践的なヒントが見つかるはずです。
便失禁・弄便（ろうべん）はなぜ起こる？親子の信頼関係を壊さないための第一歩
介護のイメージ
介護を経験した人なら、一度は耳にしたことがあるかもしれない「弄便（ろうべん）」。便を意図的に触ったり、壁やカーテンに塗りつけたりする行動のことです。正直に言うと、最初は「信じられない」という気持ちと「なぜこんなことをするんだ」という怒りでいっぱいでした。父がベッドから落ちて股関節を骨折し、完全な寝たきりになってから、認知症が少しずつ進行していたことは知っていましたが、まさかこんな行動に出るとは思ってもいませんでした。
父がカーテンに便を塗りつけているのを見つけたとき、私は思わず声を荒げてしまいました。父はしょんぼりして何も言い返しませんでした。このとき、私は「これで終わった」と安心しましたが、それは大きな間違いでした。
実は、弄便は認知症の症状のひとつであり、本人にとっては意味のある行動であることが多いのです。たとえば、便が出たことへの不快感を訴えられない、おむつがずれて気持ち悪い、あるいは単に「そこに何かある」という好奇心からくるものかもしれません。
私の父の場合、声を荒げたことで一時的にその行動が止まりましたが、それは根本的な解決にはなっていませんでした。結果、2週間後には床一面に便がまき散らされ、私は転倒して腰を強く打つことになります。
この経験から学んだことは、怒りや感情的な対応は根本的な解決にならないということです。弄便は、本人の不快感や意思をうまく伝えられないSOSのサインかもしれません。
後悔先に立たず…私がもっと早く知りたかった「3つの対策」
「もしあの日に戻れるなら、もっと早く対策をしておきたかった」と今でも強く思います。父の弄便行動に直面した私が、最終的にたどり着いた解決策は、単に「やめて」と言うことではありませんでした。専門家からのアドバイスや自分自身の学びを通じて見つけた、3つの対策をご紹介します。
介護服選びの落とし穴！「おむつに手が届かない」だけでは不十分だった
便を塗りたくる行為をやめさせるため、私はまず介護用パジャマを購入しました。手の届きにくい場所にファスナーやマジックテープがある、いわゆる「弄便防止服」です。これを着せることで、確かに父はおむつに手を入れることができなくなりました。
しかし、これはあくまで対処療法に過ぎませんでした。父は弄便はしなくなりましたが、今度はオムツから便が漏れるという新たな問題が発生しました。父が自分でオムツを触れないため、微妙な位置調整ができず、寝返りを打った拍子に漏れてしまうことが増えたのです。
このとき私は、介護用パジャマは万能ではないことを痛感しました。本来、弄便を防止するためには、以下のような複数の視点からアプローチすることが重要だったのです。
- おむつのサイズや種類の見直し尿量や便の硬さに合わせて、最適な介護用品を選ぶ
- 水分摂取量の調整便秘を改善し、便の性状を整える
- 専門家への相談なぜ弄便をするのか、その根本原因を探る
介護は「力技」ではない！専門家と連携して負担を「見える化」する
父はもともと大柄だったため、立ち上がりの介助や体位交換は、私一人では重労働でした。それでも私は「家族だから」と、すべて自分でやろうと抱え込んでいました。
しかし、これは介護者が共倒れする典型的なパターンです。骨折した父の介助に肩を貸していた時期はまだよかったのですが、完全に寝たきりになってからは、ひとりで抱えるには限界がありました。
もし当時、私がもっと早く専門家の助けを借りていたら、父の骨折をきっかけに寝たきりになった後も、もっと楽な方法があったかもしれません。
介護に関する疑問解決！専門家は「相談相手」として最高のパートナー
当時の私が抱えていた疑問の数々は、今なら専門家と連携することで解決できるとわかります。特に、在宅介護の負担を軽減し、より良いケアを実現するためには、ケアマネジャーや医師との連携が欠かせません。
Q. 介護用パジャマを着せても、かえって本人が不快になりませんか？
A. 確かに、体にフィットしすぎたり、着脱が難しかったりすると、本人のストレスになることがあります。重要なのは、本人の身体状況や性格に合わせた商品を選ぶことです。無理に手を出せないようにするだけでなく、着心地や肌触りも考慮して選ぶことが大切です。最近では、一見普通の服に見えるおしゃれな介護服も増えています。専門家に相談して、複数の選択肢から試着してみるのも良いでしょう。
Q. 毎日自宅に来てもらうのは費用がかかりそう…どうすればいい？
A. 介護保険を利用すれば、訪問看護や訪問リハビリテーション、医師の往診サービスなどを自己負担1割から3割で利用できます。特に、介護保険の要介護認定を受けていれば、サービス利用の計画（ケアプラン）をケアマネジャーが作成してくれます。介護費用を抑えつつ、専門的なケアを受けるためには、まずはお住まいの地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに相談してみましょう。
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たった一つの気づきが、介護を楽にする大きな一歩に
在宅介護は、本当に孤独な闘いです。誰にも言えない悩みや辛さを抱え込みがちになります。しかし、私の失敗談から学んでほしいのは、「一人で抱え込まない」ということ。
私の父が便をまき散らしたあの悲劇は、私にとって介護の考え方を大きく変えるきっかけとなりました。物理的に行動を制限するだけでなく、なぜその行動が起こるのかを理解しようと努め、プロの力を借りるという選択肢を持つことが、いかに重要であるかを知りました。
在宅介護は、単なる「お世話」ではありません。介護される側と介護する側、双方の尊厳を守りながら、いかに快適な生活を築いていくかという、クリエイティブな挑戦でもあります。
今、あなたが直面している苦労や悩みは、決して無駄ではありません。その経験は、きっと誰かの役に立ちます。そして、あなたが今日この記事で得た小さな気づきが、これからの介護生活をより豊かで穏やかなものに変えるための、大きな一歩になることを心から願っています。
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