終末期の在宅介護で、大切な家族が口から何も食べられなくなったとき、「点滴をしないのは見殺しにしているのでは?」と不安に感じる方は少なくありません。
「点滴を続けて体力を持たせてあげたい」「少しでも長く生きてほしい」そう思うのは、ご家族として当然の気持ちです。
しかし、病院や施設で終末期に点滴が続けられる一方、在宅介護では点滴をしない選択をすることもあるのをご存知でしょうか。これは、ただの延命治療の拒否ではありません。実は、在宅医療のプロたちが長年の経験からたどり着いた、「最期を穏やかに、楽に過ごしてもらうための知られざる選択肢」なのです。
この選択がなぜ、最善とされるのか?点滴をしないことが、どのようにご本人を楽にするのか?
この記事では、在宅医療の第一線で活躍する医師の視点から、その深い理由と、ご家族が納得して最善の選択をするためのヒントを徹底的に解説します。
点滴が「延命」どころか「苦痛」になるのはなぜ?終末期医療の常識を覆す事実

介護のイメージ
「食べられないなら点滴で栄養を補給する」これは、私たちがこれまで当たり前だと思っていた医療の常識です。しかし、終末期の身体は、私たちが思う以上に繊細で、機能が低下しています。
ご本人の身体が、もう水分や栄養を必要としていない状態であることを、深く理解することから始めましょう。
身体が「枯れる」プロセスを理解するなぜ脱水が穏やかさを生むのか
終末期に食事が摂れなくなるのは、消化吸収機能や腎機能、そして循環器機能など、全身の機能が徐々に低下していくからです。つまり、「食べられないから死ぬ」のではなく、「死が近づいているから、身体が自然と食べることをやめる」のです。
この自然なプロセスの中で、体内の水分量は徐々に減っていきます。この緩やかな脱水状態は、実はご本人にとって、とても穏やかで楽な状態をもたらします。
例えるなら、医療用麻薬に似た鎮静効果があると言われており、不眠や不安を和らげ、意識を穏やかに保つ働きがあると考えられています。
ご本人は徐々に眠る時間が増え、苦痛を感じることなく安らかに過ごせるようになります。
この状態を「枯れるように逝く」と表現することがありますが、これは無理に水分や栄養で体を満たすのではなく、植物が自然に枯れていくように、安らかに最期を迎える姿を意味しているのです。
終末期の点滴が悪循環を生む3つのメカニズム
では、終末期に点滴を続けると何が起こるのでしょうか。
それは、ご本人の身体が処理しきれない過剰な水分や栄養が体内に溜まり、さまざまな不快な症状を引き起こす悪循環です。
- 全身のむくみと痛み点滴で入った水分が体外に排出されず、肺や手足、顔などがパンパンにむくみ、不快感や痛みの原因となります。
- 痰・唾液の増加水分過多によって気管支や口腔内の分泌物が増え、ゴロゴロという音(デスラトル)が聞こえたり、窒息リスクが高まったりします。その結果、頻繁な喀痰吸引が必要となり、ご本人への負担が大きくなります。
- 誤嚥性肺炎リスクの増大増えた唾液や痰をうまく飲み込めなくなり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まります。これを防ぐために絶食指示が出され、口から何かを食べる楽しみが奪われてしまいます。
これらの症状は、ご本人を苦しめるだけでなく、ご家族の精神的な負担も増大させます。点滴を続けることが、かえって「看取り」の穏やかさを奪ってしまうのです。
「見殺しではない」と納得できる説明家族の不安を和らげる4つの視点
終末期に点滴をしないという選択は、ご家族にとって大きな決断です。しかし、「何もしてあげない」ことではありません。むしろ、「ご本人が一番楽に過ごせるようにする」という、積極的な選択なのです。
ご家族がこの選択に納得し、安心して向き合えるように、医療者は丁寧に説明する責任があります。ここでは、その説明の際に大切にすべき4つのポイントをご紹介します。
1.「死」という現実を正面から受け止める姿勢
まず、ご家族と医療者が「ご本人の命には限りがある」という現実を共有することから始めます。
これは残酷に聞こえるかもしれませんが、「もう助からない」という諦めではありません。
「ご本人の身体が、穏やかな死に向けて準備を始めている」という、自然なプロセスの始まりとして捉えることが重要です。
この前提が共有されていなければ、どんなに素晴らしい説明もご家族には届きません。
点滴が引き起こす「苦痛」を具体的に伝える
「点滴をしない方が楽です」という漠然とした説明だけでは、ご家族の不安は解消されません。
「点滴を続けると、肺に水が溜まりやすくなり、呼吸が苦しくなってしまいます」「痰が増えて何度も吸引が必要になり、その度に体を起こさなければならず、休まる時間がなくなります」といった具体的な苦痛を丁寧に伝えます。
ご本人にとっての最善を追求することが、ご家族の納得につながります。
「楽に過ごすこと」を最優先目標として共有する
終末期の介護における共通の目標は、「ご本人にできるだけ長く生きてもらうこと」ではなく、「最期まで尊厳を保ち、楽に穏やかに過ごしてもらうこと」です。
この目標を、医師や看護師だけでなく、ご家族、そしてケアマネジャーやヘルパーといった多職種間でしっかり共有することが不可欠です。
ゴールが共有できれば、点滴をしないという選択も、目標を達成するための最善策だと理解しやすくなります。
「口から食べる楽しみ」を最後まで支える
終末期においても、ご本人が口から何かを食べることは、大きな満足感につながります。
点滴をしないことで、唾液や痰が増えにくくなるため、誤嚥のリスクを抑えながら、口から食べられる可能性を維持することができます。
「点滴はしないけど、食べられるものを、食べられる形で、最期まで一緒に楽しむことができますよ」という前向きなメッセージは、ご家族の「何もしてあげられない」という罪悪感を和らげ、希望を与えてくれます。
アイスクリームを少しだけ、口に運んであげる。大好きなプリンを一口だけ。その小さなひとときが、ご本人とご家族にとって、かけがえのない宝物になるのです。
在宅介護 点滴に関するよくあるQ&Aプロが教える判断のヒント
「点滴をしない」という選択肢は、まだ一般的ではないため、さまざまな疑問や不安が湧いてくることでしょう。ここでは、在宅医療の現場でよく聞かれる質問とその回答をまとめました。
- 点滴を少しだけする、という選択肢はありますか?
あります。終末期の点滴は、脱水症状や体力の維持を目的とした栄養点滴ではなく、水分補給としての点滴が一般的です。ご家族の「何もしていないわけではない」という気持ちを尊重し、ご本人の身体への負担を最小限に抑えるため、輸液量を200ml程度に抑えて点滴を行うことがあります。この量であれば、むくみや痰の増加もほとんど見られず、ご本人も楽に過ごせます。 - 点滴をせずに本当に大丈夫?脱水で苦しい思いをさせませんか?
終末期の穏やかな脱水は、ご本人を苦しめるものではありません。むしろ、身体が水分を必要としていない状態への自然な移行であり、鎮静効果をもたらすことがわかっています。医師や訪問看護師は、ご本人の状態を常に観察し、痛みや不快感がないか確認しながらサポートしますのでご安心ください。 - 点滴をしないと、回復するチャンスを失ってしまうのでは?
終末期の状態は、病気が治癒に向かう過程とは異なります。無理に栄養や水分を投与しても、病状が回復することはありません。回復を目指すための医療から、いかに安らかに最期を迎えられるかを重視する医療へと、ケアの目標を切り替えることが重要です。
在宅での看取りは、画一的な正解があるものではありません。ご家族の思いとご本人の状態、そして医療者の専門的な知見をすり合わせながら、その家族にとっての最善の道を探していくプロセスです。
もし不安なことがあれば、担当の医師やケアマネジャーに何度でも相談してください。あなたの不安を正直に伝えることが、より良い選択につながります。
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まとめ最善の在宅介護は「苦痛を減らす」という愛の選択
在宅介護における終末期の点滴は、ただの「延命治療」ではありません。
点滴をすることで、ご本人に不要な苦痛を与えてしまう可能性があること、そして、点滴をしないという選択が、ご本人が「穏やかで安らかな最期」を迎えるための最善策であるという事実をお伝えしました。
大切なのは、「何もしていない」という罪悪感ではなく、「ご本人の苦痛を減らすために、最善の選択をした」という確信です。
在宅医療のプロフェッショナルたちは、どんな選択をしても、ご家族とともに悩み、寄り添い、支えていきます。
ご本人の尊厳と安らかさを最優先する、あなたのその深い愛こそが、何よりも素晴らしい介護なのです。
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